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■■■■『プロフェッショナル・サンデー・フォトグラファーへ!』■■■■
「写真がライフワーク」と考える写真家のためのメルマガ
                     <http://www.takahisanagai.jp>
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 「プロフェッショナル・サンデー・フォトグラファー」とは、本
 業を離れて一人のプロフェッショナルとして写真作品を撮り続け
 る写真家のことで、私の造語です。

 写真を本業にしていないからこそ、アート的プロフェッショナル
 ・フォトグラファーとして、一つのテーマを長いスタンスで追い
 続ける人達です。

 本メルマガは、「ライフワークは写真」と考える全ての方々に、
 プロフェッショナル・サンデー・フォトグラファーという生き方
 を提案します。

 全部で7つある心得を紹介しています。現在は第四の心得。
 詳しくは下記を参照下さい。

<http://www.takahisanagai.jp/photoexhibition/psp/psp-backnumber.html>

 私も個展を中心に写真活動を続けています。
 写真のサイトもYahoo!のCoolサイトに登録いただきました。

 皆様と一緒に、プロフェッショナル・サンデー・フォトグラファ
 ーの生き方を考えていければ、と考えております。
 よろしくお願いいたします。

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■■■今回のポイント■■■
「写真は、最初の衝動を持つことが大切」
とは、本メルマガでも繰り返し述べてきました。しかし、
「写真に技術は必要ないんだ。必要なのはパッションだけだ」
という考え方もあります。その辺りを考えてみましょう。

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第022号:2004/08/14
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■■■目次■■■
【前号のポイント】
【第四の心得:技術は大切だが全てではない その2 技術軽視の罠】
【読者からの質問】
【あなたの声を聞かせてください】
【私のお気に入り】
【『風の写真館コレクション』より】
【あとがき】

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【前号のポイント】
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●第四の心得とは、「自分の選んだテーマでは第一人者としてプロ
と同等の技術を持つ。但し、技術が全てでないことも知っている」
です。

●写真機材の進歩は、写真家に求められる技術を、ハード寄りのも
の(露出、ピント、構図等)から、ソフト寄りのもの(被写体への
想い・衝動、思想)へ、つまりより本質的なものへ変えてきていま
す。

●よい写真を撮るために、アマチュアは偶然に任せますが、プロフ
ェッショナル・サンデー・フォトグラファーは必然性を高める努力
を行います。そのために必要なのが技術です。

●ここで言う技術とは、撮影機材の進歩で代替可能なピント合わせ、
露出、構図、現像・プリント技術等のハード面だけではありません。
(もちろんそれらも重要ですが)

●ここで言う技術とは、「自分の衝動を的確に表現するためのプロ
セス」です。撮影の前の様々な準備(構想力・調査力・企画力等)、
撮影時の集中力、撮影後の反省力等の全体を包含したものです。

●「写真における技術」とは、単にハード的な技術上の問題としてで
はなく、心得のレベルまで遡って考えていくべきであり、そのペース
となるのが、自分の衝動・パッションです。

●一方で、「写真に必要なのはパッションだけだ!技術なんてものは
必要ない」という話もよく聞く言葉です。この点はどのように考えれ
ばよいのでしょうか?

ということでした。

下記で前号について詳しくご覧いただけます。
<http://www.takahisanagai.jp/photoexhibition/psp/psp21.html>

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【第四の心得:技術は大切だが全てではない その2 技術軽視の罠】
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「写真はパッション・衝動だ」

とよく言われます。私もこのメルマガで「写真は、最初の衝動を持
つことが大切」と申し上げました。

一方で、「写真に技術は必要ないんだ。必要なのはパッションだけ
だ」と極論する考え方もあります。

撮影パッション至上主義は、結構広く世の中に行き渡っているよう
に思えるのです。

それだけで十分なのか、ということが今回のテーマです。

プロフェッショナルとして活躍する写真家は、みな強烈な個性を持
っておられます。 森山大道氏は、その中でも特に強い個性を放っ
ておられます。

森山氏が1972年に出した写真集「写真よさようなら」はハイコ
ントラスト・素粒子・ゴミだらけ。作品によってはフィルムに傷が
付いていました。

それにも関わらず、強烈なメッセージを放っていました。

初めて作品を見た時は、「このような表現方法が許されるのか」と
驚くとともに、作品の圧倒的な存在感に大きな衝撃を受けました。

当時の森山氏の写真作品は、インターネット上のサイトで見ること
ができます。

<http://www.moriyamadaido.com/gallery/index.html>

このような、一見雑に撮影した写真は、パッションがあれば誰にも
撮影できるように思えます。(実際、ハーフサイズのカメラを使い、
ノーファインダーで撮りまくっていたそうです)

私が本格的に写真を始めた1980年当時、技術を十分に身に着け
ずに形だけ「大道チック」な写真を撮るアマチュア写真家が多くい
ました。

当時、そのような作品を撮るアマチュアに対して「こいつは下手だ
けど何か凄いものを持っている」と寛容に評価する風潮もありまし
た。

しかしながら、多くの場合、彼らは、本道の写真(確実に自己表現
の技術を確立し、自分の衝動を表現する写真スタイル)の単なるア
ンチテーゼを行っただけで、それ以上の発展はなかったように思い
ます。

実際、森山氏自身の中の激しい葛藤の結果が、彼の作品に結晶され
ています。

インターネット上で公開されている写真集『にっぽん劇場写真帖』
(1968年発刊)の冒頭で、森山氏は次のように述べています。

 当時、(中略)僕はいつも得体の知れないイライラやモヤモヤを
 沢山抱え込んでいた。そうした、写真を撮ることから生じるスト
 レスや、僕の日常生活そのもののなかにひそむ不安感の一切を、
 この本をつくるにさいして全てぶちこみたいという思いだったは
 ずだ。写真にテーマなんていらない、写真なんて美しくなくても
 いい、僕の眼に写り、身体が感応し、心に突き刺さってくるもの
 はことごとく対象であり等質なのだ、という過剰な気負いの中で
 一気に編集した覚えがある。

また同じく、写真集『写真よさようなら』の冒頭では以下のように
語っています。

 この本を作ったころのぼくは、自分の写真もふくめて、全ての写
 真に対して懐疑的になっていた。ちょうど写真同人誌<PROV
 −OKE>が解散した直後のことで、ぼくは持っていき場のない
 気持ちをもてあましていたような気がする。写真の解体・写真の
 無化・などという言葉がしきりに脳のなかに去来し、写真を一度、
 果ての果てまで連れていってしまいたいという衝動にかられてい
 た。つまり、従来の、美意識・意味といった、疑うことのない一
 定の世界観によって成立していた写真との訣別!というわけであ
 った。現在(いま)、思い返してみると、当時のぼくが、矛盾や
 短絡だらけだったにせよ、いかに過剰であったことよと懐かしく
 なる。(後略)

このような葛藤の末に生み出された作品と、葛藤を経ずにそのスタ
イルだけを模倣した作品との間に大きな隔たりがあることは言うま
でもないでしょう。

参考までに、森山氏は現在も精力的に写真活動を続けていらっしゃ
います。

まさに森山氏の作品は、様々な葛藤の末に、前回述べた「自分の衝
動を的確に表現するためのプロセス」である「技術」を確立し、生
み出されたものであると言えるのではないでしょうか?

その意味では、非常に高度な技術の集大成です。
(繰り返しになりますが、この場合の技術とは、カチっとピントを
合わせて構図を決めるハードウェア的な技術ではなく、自分の衝動
を的確に表現するために確立したプロセスのことです)

それでは、写真における技術はどのように深めていけばよいのでし
ょうか?

次回はこの点について考えてみたいと思います。


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【読者からの質問】
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読者の方からご質問をいただきましたので、ご紹介します。

>> いつもメルマガを楽しく拝見しています。
>> 20号は機種レベルの違い、とても分かりやすかったです。
>> 自分が買う時の 判断材料にしたいと思います。
>>
>> さて、本日メールをしたのは永井さんのご意見が聞きたいから
>> です。
>>
>> それは、”写真の補正は必要か?”です。
>>
>> 画像データのデジタル処理が簡単にできますよね。
>> 色相を変えたり、彩度をあげたり。
>> 平凡な画像でも、驚くほど効果的になります。
>>
>> そうすると、シャッターチャンスを待つ必要はあるのでしょう
>> か。フィルムや絞りや露出に悩む必要があるのでしょうか。
>>
>> 失敗をして、次は絶対成功させる!
>> という気合が上達させると思います。
>> それが、ボタンひとつで簡単に直せてしまうと
>> 作品に対する執着心が無くなるような気がするんです。
>>
>> 写真は切り取った”瞬間”が全てで、
>> 後から手を加えない方が良いのでは、と私は思うんです。
>>
>> 今日、たまたまデザイン事務所で、画像データの補正作業をみ
>> る機会があったので、こんな事を考えたんです。
>>
>> 補正作業について、よろしければ永井さんのお考えを聞かせて
>> 頂けませんか。
>>
>> それでは。
>>
>> (Yさんより)


Yさん、いつもご質問ありがとうございます。
まさに現在書いている技術に絡んだ質問ですので、大変ありがたく
思います。

様々な考え方があると思いますが、私の考え、ということでご返事
させていただきます。

まず、基本的には、写真は原板が基本だと思います。
つまり、構図・露出・ピント等は、撮影時に意図通りに合わせて、
フィルム現像した結果であるネガ又はポジの状態をそのままプリン
トすればOK、という形が理想と思います。

しかしながら、なかなかそのようにならないのが実情です。

これを救済するために、デジカメ登場前でも、プリントの際に覆い
焼きをしたり、カラーバランスを変える、ということは一般的に行
われてきました。 また、レンズにストッキングを被せる等により、
ソフトフォーカスに仕上げることもできました。

以前ご紹介した「戦場のフォトグラファー」ジェームズ・ナクトウ
ェイ氏のドキュメンタリー映画でも、ナクトウェイ氏がプリントに
徹底的にこだわり、何回もプリント担当者に焼き直しをさせている
シーンがありました。

このように、撮影した画像をより美しく仕上げるために調整する、
という行為自体はOKであると思います。

デジタルの特性は、この補正範囲がさらに拡大する、という点です。

具体的には、特定の範囲を指定して正確に色調を変えたり、今まで
できなかったコントラストやトーンカーブを変えたり、シャープに
したり、背景の余分な被写体(電線など)を削除したり、というこ
とが容易に行えます。ポートレイトでは、顔のしわやシミを取る事
もできます。

参考までに、化粧品のポスターに掲載されている女優さんの写真の
ほとんどは完璧に補正されているようです。ほくろ等、その人のト
レードマークとなっている部分以外、全くシミ・ソバカス・小じわ
等がないんですから。よく見てみると不自然ですよね。

写真のオリジナル性の観点で、この辺りがどの程度まで許されるか
は、各自の主観によると思います。しかし、昔からドキュメンタリ
ー写真でも覆い焼き等を行っていたことからも分かる通り、全く許
されないものではないと思います。

しかしながら、補正といっても限界がある訳で、やはり原版がしっ
かり仕上がっていることが何よりも大切だと思います。

たとえば、一瞬のシャッターチャンスで得られた素晴らしい表情を、
デジタル補正で出すのは難しいと思います。

また、平凡な風景を補正によってきれいな風景に作り変えた写真と、
素晴らしい風景に出会って撮影した写真とでは、やはり後者の方が
自然で美しいのではないでしょうか?

デジタル技術で作ることはできるかもしれませんが、それは写真と
は別分野の表現形態であるように思います。

また、シャッターチャンスを逃してしまったために、写真の右側の
人物と左側の人物を別々の写真から持ってきて合成する、というこ
ともデジタルの世界では可能ですが、これも写真ではなくコラージ
ュの世界になると思います。

従って、デジタル写真の世界でも、シャッターチャンスは大切であ
ると思います。

私の場合ですが、トリミングや原版を損なわない範囲での色調・ト
ーンカーブ補正は行っていますが、被写体そのものには手を加えな
いことを基本原則にしています。

以上、的確なお答えになっていないかもしれませんが、ご参考にな
れば幸いです。

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【あなたの声を聞かせてください】
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本メルマガは、読者の皆様と一緒に作っていきたいと思います。
是非あなたのご意見・ご質問・ご要望を聞かせてください。

<http://www.formman.com/form.cgi?gOifBUg2nMuZ8wtt>

また、掲示板も開設しています。
皆様の書き込み、大歓迎です。

<http://takahisanagai.jp/cgi-def/admin/C-002/bb/visit/main.pl>

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【私のお気に入り】
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私のお気に入りの写真集や書籍をご紹介します。

■■ 『あなたの写真を拝見します』 安友志乃 ■■

写真のあり方について、様々な気付きを与えてくれる本です。
本文の中からいくつかご紹介させていただきます。

『けれども、撮るために見るということは、その「かたち」を見る
ことではなく「かたち」の奥にある概念を見ることなのである。』
(p.85)

→以前より、写真というメディアを介して自分の中の真実を写し取
 るのが写真の本質と考えておりましたので、この部分はとても共
 感できました。


『一つには(絵画等で)描くほうが主題はより直接的に表現できる
ということ。もう一つは、写すという行為で主題を表現するのであ
れば、背景や機材という主題以外のある種「条件」が必要になる、
ということ』(p.96)

→表現手段として自分の表現意図を忠実に再現してくれる機材が必
 要な点が、写真と他の芸術的表現手段の大きな差です。

 案外と、この辺りが写真の機材・技術中心主義の出発点なのでし
 ょうね。

 この観点では、写真は楽器を必要とする音楽の世界(特に即興性
 を求められるジャズ)と似ているかもしれません。


『「私にしかできない写真」という心地よい錯覚と自己陶酔は、そ
の人間のアイデンティティを代替わりする役にまで高められている。
自己のない人間にとって技術は、自負と自尊心という安手のアイデ
ンティティを与えてくれるのである』(p.102−103)

→まさに、写真による安易な自己表現が、単なる自己満足に終わっ
てしまう危険性を喝破しています。


著者の安友さんの仕事は写真の講評で、仕事柄多くの写真作品に接
してきました。

インターネット上の様々な書評を見ると、安友さんの著書に対して
は批判も多いようですが、私自身は「そうなんだよなぁ」と共感す
るところ大でした。

詳しくは下記をご覧下さい。

<http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4896250583/wps-22>

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【『風の写真館コレクション』より】
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今回は、「風の景色」シリーズから「Palm Beach, Surfer's
Paradise, Australia, 1996 」です。

Palm Beachは、Surfer's Paradiseからバスで10分ほど南下した小
さな街でした。入江の向こう岸、白く高い波頭の先に、Surfer's
Paradiseが見えました。

こちらでご覧いただけます。
<http://www.takahisanagai.jp/collection/News/collection-017.html>

『風の写真館コレクション』への登録は下記でどうぞ。
<http://www.takahisanagai.jp/collection/collection.html>

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【あとがき】
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この夏休みは日帰りで山登りに行ってきました。

東京は33度の炎天下だったこの日、山では22度位で、緑と清流
の自然に囲まれた非常に清々しい一日を過ごしてきました。

考えてみれば山登りは高校生以来でしたが、身体は何となく山登り
のリズムを憶えているものですね。

ただ、下山の際には膝が笑ってしまい、翌日は筋肉痛でした。

では、また。
                          永井孝尚

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発行人:永井孝尚 <mailto:mail@takahisanagai.jp>

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Copyright(C), 2004 永井孝尚


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