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■■■■『プロフェッショナル・サンデー・フォトグラファーへ!』■■■■
「写真がライフワーク」と考える写真家のためのメルマガ
                     <http://www.takahisanagai.jp>
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■■■今週のポイント■■■
なかなかテーマがピタっと定まるタイトルを決めるのは難しいです
ネ。言語化が不十分でテーマが広がらないケースもありますし。

「写真におけるテーマとは何か」、改めて考えてみましょう。

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第014号:2004/04/23
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■■■目次■■■
【前号のポイント】
【第二の心得:自分だけのテーマ その7 テーマを言語化する例(3)】
【「第二の心得」シリーズのご感想を聞かせてください】
【今週の『風の写真館コレクション』】
【あとがき】

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【前号のポイント】

●改めて、ネーミングはとても大切なものです。ビジネスの世界で
も、商品名やブランド名次第で結果が全く変わる場合があります。

●例えば、レナウンの「通勤快足」。(抗菌防臭ソックス)
最初、「フレッシュライフ」という名前で出して全く売れなかった
のですが、「通勤快足」という名前にした途端、売上が9000万
円から8億円にジャンプしました。

●ツボにハマった商品名は、売上が10倍になったり、「ヘッドフ
ォン付き携帯プレイヤー」というと誰もが「ソニーのウォークマン」
というブランドを思い浮かべるように、すごい力を発揮します。

●作品も同様です。作品と完全に一致したタイトルは、商品同様、
作品全体の力を飛躍的に高めてくれます。このためには、自分の作
品の本質を徹底的に考え、十分に納得のいくタイトルを作っていき
ましょう。

●ということで、ケース2は、私の初めての本格的な写真展、
"Tokyo Bay Area"シリーズです。
<http://www.takahisanagai.jp/photoworks/tokyobayarea/tokyobayarea.html>

●このテーマは1987年に羽田で撮影した次の作品がきっかけで
した。全体が信じられない程の深紅色に染まった夜明け前の東の空
に向かって夢中で写真を撮りながら、「神の啓示というものがある
とすれば、このような瞬間にあるのかもしれないな」と感じました。
<http://www.takahisanagai.jp/photoworks/tokyobayarea/tba8921.html>

●撮り始めた頃のタイトルは、実は"Tokyo Bay Area"ではなく「湾
岸道路」でした。東京湾岸の写真を撮りに行く時は、いつも誰もい
ない湾岸道路を車で走っていたため、自然とこの名前をテーマにし
ようと考えました。

●しかしながら、このタイトルには常にひっかかっていました。何
故なら、自分が衝動を持ったのは東京湾岸一帯の不思議な空気であ
って、「湾岸道路」という被写体そのものではないからです。

●1988年のある夜、横浜の新山下で"Yokohama Bay Side Club"
という被写体に出会いました。
<http://www.takahisanagai.jp/photoworks/tokyobayarea/tba8932.html>

●屋根の上で光る巨大なネオンサインのイメージが強烈で、まさに
私が探し求めていたテーマそのものでした。これがヒントになり、
"Tokyo Bay Area"というタイトルを考えました。

●"Tokyo Bay Area"シリーズは撮り始めてから18年目です。
1989年に第一回目の写真展を開催、1993年に第二回目の写
真展を開催しました。しばらくお休みをいただいた後、昨年から撮
影を再開しています。

●東京湾岸の景色は90年代前半から大きく変わりましたが、その
空気は何も変わっていません。今後もライフワークとして撮り続け
ていきたいと考えています。

ということでした。

下記で前号について詳しくご覧いただけます。
<http://www.takahisanagai.jp/photoexhibition/psp/psp13.html>

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【第二の心得:自分だけのテーマ その7 テーマを言語化する例(3)】

約20年間続けている私のライフワークである"Tokyo Bay Area"や
「風の景色」以外にも、撮影を続けているテーマがあります。

●ケース3:"Graceful Flowers"の場合

その一つが、"Graceful Flowers"という花の写真のシリーズです。
日本語では「優美な花たち」という意味です。
<http://www.takahisanagai.jp/photoworks/gracefulflowers/gracefulflowers.html>

元々、私は花にはあまり興味がありませんでした。
では、なぜ、撮り始めたのでしょうか?

このシリーズを撮り始めたのは、1995年の初夏、銀座の中古カ
メラ委託販売店で、見た事もないレンズに出会ったのがきっかけで
した。

大きなピントリングの回りに"Dream Soft Lens" と書いてあるその
レンズは100mm f2.2で製造メーカー名は何も書いていませんでした。

「何だ?これは?」というのが第一印象でした。
このテの不思議なモノが大好きな私は店の方にお願いして棚から出
してもらいました。

実際に手に取って見てみたところ、非常にユニークなレンズでした。
(今回は機材がテーマではないので、私の好きな機材の話は割愛し
ます)

どんな写りをするのか見てみようと、店頭で手持ちのEOSに付け
てファインダーを覗いてみたところ思わず声をあげてしまいました。

真ん中のピントが合った部分は芯があるようでないような不思議な
ボケ方ですし、周辺はファインダー上でもかなり目立つ程外側方向
へ画像が流れます。マクロ撮影時はさらにその傾向が強くなるよう
です。各種収差の塊ですが、非常に味があるレンズでした。

「このレンズを使いこなすことで、自分が今まで撮れなかったモノ
が撮れるかもしれない」

そんなことを考えて、17、000円のこのレンズを速攻で買って
しまいました。その後同じレンズを見かけたのは2年後の銀座・松
屋の中古市で見かけた一回だけでした。

翌日、友人達とハーブガーデンに遊びに行った際、カモマイルやゼ
ラニウム、チェリーセージ、等々のハーブを片っ端から撮影してみ
ました。

初夏のまだ涼しさが残る空気の中、ハーブの香りが漂うガーデンで
美しくほころび始めた蕾を撮影していると、脳内快楽物質が大量に
分泌されてくるのが実感でき、まさに思った通り次々と撮影を続け
ることが出来ました。

このレンズを通して花を見ると、ファインダー上の不思議な空気感
の中で、花が様々な優雅な表情を見せてくれます。

粘って撮っていると、微笑んでくれる瞬間に出会うこともあります。
これは大きな驚きでした。

出来上がった作品は今までに見た事もない幻想的なものでした。

「これは使える!」

そう確信して以来、私のライフワークの中に花が加わり作品の幅が
広がることになりました。

この"Graceful Flowers"(「グレイスフル・フラワーズ」と読みま
す)というタイトルは、そのようなしとやかで上品な花達を表現し
ようとしたものです。

ただ、イマイチ分かりにくいタイトルですので、もう一捻りしたい
ところです。

また、現時点ではこの作品は発展途上です。たまたま、このレンズ
と出会ったご縁で撮影を続けていますが、自分としてはまだ「これ
は自分しか撮れないモノだ」と納得するに至っていません。将来的
に、もう少し進化できれば、と思っています。


●ケース4:ボツの場合

当然のことながら、ボツのものもあります。
私はあまり浮気性ではないので(笑)、数は多くはありませんが。

例えば、日本らしい風景の空気感を表現しようとして、紅葉や山の
景色等の季節の移り変わりを撮り始めた時期がありました。

タイトルを暫定的に"Seasons"、又は"Japan"と付けて、他人に見せ
られるレベルの作品は何枚か溜まりました。

しかしながら、出来上がった作品群には自分らしさがイマイチ出て
いませんでした。

また、"Seasons"や"Japan"という言葉は、意味するものが広すぎ、
テーマの言語化も不十分でした。

何よりもこのテーマを加えると、他テーマが希薄になってしまう可
能性がありました。つまり、

・東京湾岸の空気をテーマに絞った"Tokyo Bay Area"
・海外の空気をテーマに絞った「風の景色」
・花の優しさをモチーフに絞った"Graceful Flowers"

これらの作品群は、それぞれ重なる部分はなく、個別にテーマを追
いかけることができます。

しかしながら、「風景の空気感」というテーマは、撮影地こそ日本
ですが「風の景色」と重なりますし、また、季節感という意味では
"Graceful Flowers"とも重なります。

最終的に、自分のテーマが分散してしまう可能性もありましたので、
このテーマは暫く塩漬けにしています。


●改めて、テーマについて

今週まで、合計7回を通じて、第二の心得『数十年という長い人生
の中で、自分だけのテーマを追い続け、撮り続ける』についてお話
してきました。

改めて「写真におけるテーマ」とは何でしょうか?





私は、

「自分だけしか持っていない、被写体に対する想いを定めるもの」

だと思います。

単に好きなモノを撮り溜めているアマチュア写真家と、自分の作品
のアイデンティティを追い求めるプロフェッショナル・サンデー・
フォトグラファーの違いが、ここにあると思います。

その思想、骨太なテーマを定めるきっかけが最初の衝動であり、そ
の衝動を作品群としてまとめて、他人に分かる形に括ったものが、
「言語化」という苦闘の結果、定めたテーマです。

これが実際にどのような意味なのかは、実際に写真展や写真集等で
数十点の作品を一つのテーマに収斂させるという経験を持つ方には、
実感いただけると思います。

最初に強い衝動を経験し、一生をかけて取組む写真のテーマを見つ
けた方は、プロフェッショナル・サンデー・フォトグラファーのス
タートラインに立っています。

写真の技術や経験、ましてや写真機材は全く関係がありません。何
故なら、技術・経験・機材は衝動を実現するための手段であり、あ
る程度の時間と努力により獲得できるからです。

そのような衝動には、単に待つだけではなく、自分の問題意識を高
めることによって、出会える確率が高まります。この辺りは第一の
心得を改めてご参照ください。
<http://www.takahisanagai.jp/photoexhibition/psp/psp-backnumber.html>



さて、第二の心得『数十年という人生の中での長い時間スパンで、
自分だけのテーマを追い続け、撮り続ける』は今回で終了です。

おつきあいいただき、ありがとうございました。

第三の心得『最高の作品を作る道具として撮影機材には拘る。しか
し、機材には溺れない』に移る前に、次回は皆様からいただいたご
意見をご紹介します。


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【「第二の心得」シリーズのご感想を聞かせてください】

第8号から第14号まで、計7回にわたって続いた第二の心得、い
かがでしたでしょうか?

第二の心得シリーズ全体について、是非あなたのご意見・ご質問・
ご要望を聞かせてください。
<http://www.formman.com/form.cgi?gOifBUg2nMuZ8wtt>

「紹介してもよい」というご感想は、次回の本メルマガに掲載させ
ていただきます。

もちろん、「匿名で紹介して欲しい」とか、「紹介して欲しくない」
という場合もOKです。(アンケートで指定できるようにしていま
す)

是非、皆様のご意見を今後の内容に反映させていきたいと思います
ので、よろしくお願いいたします。

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【今週の『風の写真館コレクション』】

今回は、『風の写真館コレクション』初登場となる"Graceful
Flowers"シリーズから、「ナスタチウム、1995」です。

"Tokyo Bay Area"を撮る人間が花を撮るなんて、ちょっとイメージ
できないかもしれませんが、ご覧いただければ幸いです。

こちらでご覧いただけます。
<http://www.takahisanagai.jp/collection/News/collection-008.html>

登録(解除)・バックナンバー閲覧は下記でどうぞ。
<http://www.takahisanagai.jp/collection/collection.html>

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【あとがき】

7回かけてご紹介してきました第二の心得『数十年という長い人生
の中で、自分だけのテーマを追い続け、撮り続ける』は、まさに本
メルマガにおける『心得』のエッセンスとも言える部分です。

お付き合いいただき、ありがとうございました。

第三の心得以降は、作品を生み出す上でのより具体的な心得をご紹
介致します。よろしくお願いいたします。

ではまた来週。

                          永井孝尚

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発行人:永井孝尚 <mailto:mail@takahisanagai.jp>

 『風の写真館』<http://www.takahisanagai.jp>で作品やコラム
 を掲載しています。よろしければお立ち寄りください。

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Copyright(C), 2004 永井孝尚



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