━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
■■■■『プロフェッショナル・サンデー・フォトグラファーへ!』■■■■
「写真がライフワーク」と考える写真家のためのメルマガ
                     <http://www.takahisanagai.jp>
──────────────────────────────
■■■今週のポイント■■■
言語化は作品のテーマを揺ぎないものとしてくれる役割があります。
逆に、言語化で設定したテーマ次第で、その後の作品が変わってし
まうこともあり得ます。

やはり、名前は大切ですね。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
第013号:2004/04/16
───────────────────────────────────
■■■目次■■■
【あなたの声を聞かせてください】
【前号のポイント】
【第二の心得:自分だけのテーマ その6 テーマを言語化する例(2)】
【今週の『風の写真館コレクション』】
【あとがき】

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
【あなたの声を聞かせてください】

本メルマガは、皆様と一緒に作っていきたいと思います。
是非あなたのご意見・ご質問・ご要望を聞かせてください。
(記入は1−2分程度です)

<http://www.formman.com/form.cgi?gOifBUg2nMuZ8wtt>
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
【前号のポイント】

●言語化の例として、1998年に行った写真展「風の景色」を紹
介します。このシリーズのきっかけは、1985年に米国を旅行し
た際、Yakimaという小さな町で撮影した次の写真でした。
<http://www.takahisanagai.jp/photoworks/sceneofwind/sw12.html>

●普通の標識をそのまま撮っただけなのですが、何故か日本では決
して出せない空の色が出ました。海外で写真を撮ると、日本とは全
く違う色で写るということが新鮮で、海外に行く度に写真を撮り続
けました。しかし、なかなかタイトルが定まりませんでした。

●11年後の1996年、ホームページ掲載のためこのシリーズを
公開することになり、タイトルを決めなければなりませんでした。
当初は、"So comfortable!"というタイトルでしたが、「このタイト
ル、なんだか違うなぁ」とも思っていました。

●1997年、このシリーズでの写真展開催が決まりました。最初
の衝動は相変わらず十分に言語化できないままでした。やはり、最
初に何らかの強い衝動を持つことが一番大切なことのようです。

●何を撮ろうとしているのかを改めて考えてみましたが、結論は、
撮ろうとしているのは被写体そのものではなく、海外のその場でし
か得られない、被写体とカメラの間の「透明な空気感」なのではな
いか、ということでした。

●これを表現できる言葉はないか、と考えました。ポイントは、そ
の場に漂っていて、次の瞬間に掻き消えてなくなるかもしれない、
うたかたの空気感です。

●仕事を離れた時間は、いつも「透明な空気感」を表現する言葉を
考えていましたが、ある日、突然「透明な空気感」のメタファーと
して『風』と言う言葉が頭に浮かびました。

●そこで、風の何を表現しようとしているのかを考えてみました。
自分が表現したいのは「風」そのものではなく、「風」によって生
まれたその場のシーン・雰囲気です。 そこで、「風が運んでくれ
たシーン」ということで、『風の景色』というタイトルを考えまし
た。「風」という見えない透明な空気感を、被写体である景色を通
じて何とか写真に表現できないか、という自分の衝動をそのまま表
現した言葉です。

●写真展「風の景色」では、撮り溜めた作品群をこのテーマでセレ
クションし直しました。

●「風の景色」は、現在も同じテーマで、第2弾を米国・モルディ
ブ・フィジー等で撮り続けています。撮り始めて19年目です。

●このケースは、最初に受けた言葉にならない衝動を持続してその
まま撮影を続け、最後の発表の段階で言語化を行い、テーマを設定
した例です。この例では、言葉にできない衝動を他の人に分かり易
く表現するための手段として、言語化の手法を用いました。

●「風の景色」というタイトルを考える過程で、私の一貫した写真
のテーマが「その場の空気感」であるということも自覚できました。
私のサイト名「風の写真館」も、これに由来します。

●言語化という作業は、テーマを深め、昇華してくれます。

ということでした。

下記で前号について詳しくご覧いただけます。
<http://www.takahisanagai.jp/photoexhibition/psp/psp12.html>

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
【第二の心得:自分だけのテーマ その6 テーマを言語化する例(2)】

テーマを言語化する話を続けていますが、ネーミングはとても大切
です。

実際、ビジネスの世界でも、商品名やブランド名次第で売上が全く
変わる場合があります。

例えば有名なところでは、レナウンの「通勤快足」。
(抗菌防臭ソックスです)

最初、「フレッシュライフ」という名前で出して全く売れなかった
のですが、「通勤快足」という名前にした途端、売上が9000万
円から8億円にジャンプしました。

商品名は、それだけ聞くと違和感なく、当たり前のように感じるも
のが多いですよネ。例えば、「セロテープ」(ニチバン)や「宅急
便」(ヤマト運輸)等も、今や生活に溶け込んでいます。

実は中身と一致し、消費者のイメージを高める商品名を決めるため
に、企業は莫大なマーケティング予算を使います。

その見返りとして、ツボにハマった商品名は、「通勤快足」が売上
を10倍近く伸ばしたり、「ヘッドフォン付き携帯プレイヤー」と
いうと「ソニーのウォークマン」というブランドが真っ先に連想さ
れるように、すごい力を発揮します。

作品も同様です。

作品コンテンツと完全に一致したタイトルは、商品同様、作品全体
の力を飛躍的に高めてくれます。

このためには、自分の作品の本質を徹底的に考え、十分に納得のい
くタイトルを作っていきましょう。

例えば、先週・今週とご紹介しているように、「風の写真館」、
「風の景色」、"Tokyo Bay Area"も、このタイトルに決めるまでは
試行錯誤を行ってきました。

ということで、前置きが長くなりましたが、前号の続きです。


●ケース2:"Tokyo Bay Area"の場合

ケース2は、私の初めての本格的な写真展、"Tokyo Bay Area"シリ
ーズです。
<http://www.takahisanagai.jp/photoworks/tokyobayarea/tokyobayarea.html>

"Tokyo Bay Area"というタイトル、実はこれを決めるにも紆余曲折
がありました。

第9号でご紹介したように、このテーマを撮り続けようという衝
動を持ったきっかけは1987年に羽田で撮影した次の作品でした。
<http://www.takahisanagai.jp/photoworks/tokyobayarea/tba8921.html>

全体が信じられない程の深紅色に染まった夜明け前の東の空に向か
って夢中で写真を撮りながら、「神の啓示というものがあるとすれ
ば、このような瞬間にあるのかもしれないな」と感じました。

「この場の空気を写真に残し、他の人と感動を共有したい!」とい
う衝動を持ったのがきっかけで、撮り続けていったのですが、実は
このシリーズを撮り始めた頃のタイトルは、"Tokyo Bay Area"では
なく「湾岸道路」でした。

「湾岸道路」とは、東京湾岸の海岸線に沿って作られた国道357
号線という道路の名前です。

東京湾岸の写真を撮りに行く時は、いつも誰もいない湾岸道路を車
で走っていました。そこで、自然とこの名前をテーマにしようと考
えた訳です。

しかしながら、頭の片隅で、このタイトルには常にひっかかるもの
を感じていました。

テーマを「湾岸道路」とするのであれば、全ての写真作品は何らか
の形で「湾岸道路」というイメージを構成する要素である必要があ
ります。

しかし、自分が衝動を持ったのは東京湾岸一帯の不思議な空気であ
って、「湾岸道路」という被写体そのものではありません。

実際、もしこのシリーズのタイトルが"Tokyo Bay Area"ではなく
「湾岸道路」というタイトルだったら、どうでしょうか?

「ちょっと違うなぁ」と思いませんか?

実際は、「湾岸道路」というテーマで撮り続けていたとしたら全く
別の作品群にはなっていたと思います。"Tokyo Bay Area"というタ
イトルで撮り続けたからこそ、このような作品群になった訳です。

それはともかく、別のタイトルがないかと考え始めました。

すばり、「東京湾岸」と言う言葉も考えましたが、何となく魚市場
等のようなイメージで、これも違和感を持っていました。できれば、
東京湾岸の不思議な空気が持つ、他にはない無国籍なイメージを出
したいと考えていました。

そんなことを思いつつ写真を撮り続けていたら、翌1988年のあ
る夜、横浜の新山下で"Yokohama Bay Side Club"という被写体に出
会いました。
<http://www.takahisanagai.jp/photoworks/tokyobayarea/tba8932.html>

このクラブは大型倉庫を改造したもので、屋根の上で光る巨大なネ
オンサインが発する強烈なイメージが、頭に焼き付きました。
このイメージは私が探し求めていたテーマそのものでした。

これがヒントになり、被写体である「東京湾岸地域」と言う言葉を
そのまま英語に変えた"Tokyo Bay Area"というタイトルを考えまし
た。このタイトルは、まさに無国籍な独特の空気感を持つ東京湾岸
にぴったりでした。

"Tokyo Bay Area"シリーズは1986年から撮り始めてから今年で
18年目です。1989年に第一回目の写真展を開催、1993年
に第二回目の写真展を開催しました。

その後、しばらくお休みをいただいていたのですが、昨年からまた
撮影を再開しています。

東京湾岸の景色は90年代前半から大きく変わりましたが、その空
気は何も変わっていません。今後もライフワークとして撮り続けて
いきたいと考えています。

さて、私のライフワークである"Tokyo Bay Area"や「風の景色」以
外にも、撮影を続けているテーマがあります。次回でご紹介します。

───────────────────────────────────
【今週の『風の写真館コレクション』】

今回の『風の写真館コレクション』は、"Tokyo Bay Area"シリーズ
から、「真冬の早朝 - 城南島、1991」をお送りします。

真冬の朝は非常に空気の透明感が高くなります。この日の朝は、水
平線一帯に明るいオレンジ色の帯が出来、幻想的な景色を見せてい
ました。

こちらでご覧いただけます。
<http://www.takahisanagai.jp/collection/News/collection-007.html>

登録(解除)・バックナンバー閲覧は下記でどうぞ。
<http://www.takahisanagai.jp/collection/collection.html>

───────────────────────────────────
【あとがき】

今回で第6回目になる「第二の心得」編ですが、次週が最後の予定
です。

もし「第二の心得」編でご質問・ご要望等がありましたら、是非お
知らせください。予定を変更して、もう少し「第二の心得」編を続
けるかもしれません。(笑)

ではまた来週。

                          永井孝尚

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
発行人:永井孝尚 <mailto:mail@takahisanagai.jp>

 『風の写真館』<http://www.takahisanagai.jp>で作品やコラム
 を掲載しています。よろしければお立ち寄りください。

●ご意見・コメント・ご質問はこちらまで
<mailto:news@takahisanagai.jp>
●登録・解除・バックナンバー閲覧はこちらまで
<http://www.takahisanagai.jp/photoexhibition/photoexhibition.html>

●このメールマガジンは、 まぐまぐ<http://mag2.com/>、
 melma!<http://melma.com/>のシステムを利用し
 配信しています。

●メルマガ【プロフェッショナル・サンデー・フォトグラファーへ!】
は無料です。お友達にも是非お奨め下さい

●本メルマガは自由にお友達に転送ください。
転送いただく場合は、メルマガ全体を編集せずに、そのままお送
りいただきますようお願いいたします。

Copyright(C), 2004 永井孝尚



【バックナンバーへ戻る】