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■■■■『プロフェッショナル・サンデー・フォトグラファーへ!』■■■■
「写真がライフワーク」と考える写真家のためのメルマガ
                     <http://www.takahisanagai.jp>
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■■■今週のポイント■■■
「言語化」の手法を紹介してまいりましたが、実行するのは結構大
変です。

今回は「風の景色」シリーズのテーマを決めた経緯をご紹介します。
作品イメージは最初から一貫して変わらなかったのですが、テーマ
を「風の景色」という言葉にまとめるのには結構苦労し、結局12
年かかりました。(かかりすぎ、という声も?)

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第012号:2004/04/09
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■■■目次■■■
【前号のポイント】
【あなたの声を聞かせてください】
【第二の心得:自分だけのテーマ その5 テーマを言語化する例(1)】
【『風の写真館コレクション』、登録受付中】
【あとがき】

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【あなたの声を聞かせてください】

本メルマガは、皆様と一緒に作っていきたいと思います。
是非あなたのご意見・ご質問・ご要望を聞かせてください。
(記入は1−2分程度です)

<http://www.formman.com/form.cgi?gOifBUg2nMuZ8wtt>

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【前号のポイント】

●テーマを決める簡単な手法は、この世の中には存在しません。
しかしテーマを具体化する一つの方法として、今回紹介する「言語
化」があります。

●写真家は、撮影という行為によりファインダー上に映る形に「意
味」を与えます。その「意味」は写真家のメッセージであり、写真
家にとっての真実(=認識)です。その認識を画像に浮き上がらせ
る触媒がテーマです。

●このためには、意識できない深層意識の底にある衝動を、自覚で
きる表層意識まで浮かび上がらせ、テーマとして認識できるように
する必要があります。

●この際に有効なのが、言語化です。つまり、表現したいテーマを
シンプルな言葉で表現するために、様々な言葉に置き換えて徹底的
に考える方法です。

●具体的な方法としては、写真作品や写真展のタイトルを考えてみ
るのがよいかと思います。なぜなら、作品のタイトルは、自分の表
現意図を言語化し、作品のメッセージを補完し、明確に他者に伝え
るための重要な要素であり、テーマそのものだからです。

●自分の撮りたいテーマをタイトル化するプロセス自体が、テーマ
をさらに深めることに繋がります。深層意識を深堀することになる
からです。

●「無題」というタイトルは、この「言語化」の努力を怠ったもの
であると私は考えますので、「無題」というタイトルにはあまり賛
成できません。

●一旦決めたテーマが変わってくるのは大いに結構だと思います。
それはテーマを深堀していることにもなるからです。

●また、撮影しながらテーマを決めていくという方法もよいと思い
ます。むしろそちらの方が一般的かもしれません。

ということでした。

下記で前号について詳しくご覧いただけます。
<http://www.takahisanagai.jp/photoexhibition/psp/psp11.html>

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【第二の心得:自分だけのテーマ その5 テーマを言語化する例(1)】

言語化の方法をご紹介してきましたが、実際の例が分かり易いと思
います。今週はその第一回目、私の作品を例にとってご紹介します。

●ケース1:「風の景色」の場合

ケース1は、1998年に行った写真展「風の景色」です。

<http://www.takahisanagai.jp/photoworks/sceneofwind/sceneofwind.html>

このシリーズを続けようと思ったきっかけは、1985年に米国を
旅行した際、Yakimaという小さな町で撮影した次の写真でした。

<http://www.takahisanagai.jp/photoworks/sceneofwind/sw12.html>

この写真、ガソリンスタンドで友人が給油中、手持ち無沙汰だった
ので撮影しました。なんということはない、普通の標識を撮っただ
けの写真なのですが、何故か日本では決して出せない空の色が出ま
した。

「何だ?この空の色は?」

と思いました。

海外で写真を撮ると、日本とは全く違う色で写るということが、と
ても新鮮でした。(ちなみに、この写真はミノルタCLEというカ
メラに標準の40mm/F2レンズを付けて、コダクローム64と
いうフィルムで撮影しました)

この写真を撮ってからは、「海外でしか撮れない色を表現した写真」
という、うまく言葉にできないテーマで、米国以外にも、モルディ
ブやプーケット等、海外に行く度に写真を撮り続けました。

しかし、撮り続けながらなかなかタイトルが定まりませんでした。

Yakimaの写真を撮ってから11年後の1996年、ホームページに
作品を掲載することになりました。インターネット上とは言え、初
めてこのシリーズを公開することになり、見ていただく方々にテー
マを明確に伝えるためにも、タイトルを決めなければなりませんで
した。

当初は、「海外の爽快な写真」ということで、"So comfortable!"
(敢えて訳すと「気分爽快!」)というタイトルを付けてホームペ
ージで公開しました。

しかし、「このタイトルはなんだか違うなぁ」とも思っていました。

海外での開放的な休暇をイメージする"Vacance"(「バカンス」)
というタイトルも考えましたが、これも少し違うように思いました。

このようにして時間が過ぎていく一方、最初の言葉にできない衝動
は不変でしたので、オーストラリアのゴールドコースト等でさらに
作品を撮り溜めていきました。

1997年、このシリーズでの写真展開催が決まりました。
私にとって3回目の本格的な個展でした。

つまり、1985年にYakimaで得た衝動を十分に言語化できないま
ま、12年間撮り続けた結果、写真展の審査に通ってしまったので
す。

ここでふりかえってみると、やはり、最初に何らかの強い衝動を持
つことが一番大切なことなのだと改めて思います。

いずれにしても、最初にYakimaで得た衝動を言語化し、テーマに落
とし込んで、写真展のタイトルを決める必要がありました。

そこで、「爽快な写真」は何かと考えてみました。

結局、このシリーズで撮ろうとしているのは被写体そのものではな
く、海外のその場でしか得られない、被写体とカメラの間の「透明
な空気感」なのではないか、と考えました。

これを表現できる言葉はないか、と考えました。

ポイントは「透明な空気感」です。

その場に漂っていて、次の瞬間に掻き消えてなくなるかもしれない、
うたかたの空気感です。

仕事を離れた時間は、いつも「透明な空気感」を表現する言葉を考
えていました。

ある日、スポーツクラブでテーマを考えながら水中ウォーキングを
していて、目の前で揺らぐ水面を見ている最中に、突然「透明な空
気感」のメタファーとして『風』と言う言葉が頭に浮かびました。

では、テーマは「風」とするのか、というと、これでは一般的過ぎ
るように思いました。そこで次に、風の何を表現しようとしている
のかを考えてみました。

よく考えてみると、自分が表現したいのは「風」そのものではなく、
「風」によって生まれたその場のシーン・雰囲気です。

そこで、「風が運んでくれたシーン」ということで、『風の景色』
というタイトルを考えました。

「これだ!」と思いました。

『風の景色』というタイトルは、「風」という見えない透明な空気
感を、被写体である景色を通じて何とか写真に表現できないか、と
いう自分の衝動をそのまま表現した言葉です。

一貫したテーマは、様々な場面で被写体とカメラとの間の微妙な空
気感から生まれるシーンです。

1998年に行った写真展「風の景色」では、撮り溜めた作品群を
このテーマでセレクションし直しました。

尚、写真展「風の景色」の審査から開催までの様子を下記に掲載し
ています。

<http://www.takahisanagai.jp/photoexhibition/dialy.html>

1998年当時に掲載したものなので、現時点で考えると私自身違
った考えを持っている部分もありますが、ご参考いただければ幸い
です。


「風の景色」は、現在も同じテーマで、第2弾を米国・モルディブ
・フィジー等で撮り続けています。1985年にYakimaという米国
の片田舎で標識の写真を撮ってから、もう19年目になります。

第2弾は未発表ですが、作品が揃った段階で発表したいと思います。


ということで、今回のケースは、最初に受けた言葉にならない衝動
を持続してそのまま撮影を続け、最後の発表の段階で言語化を行い、
テーマを設定した例です。

最初に徹底的に言語化が出来なかったので、最後に苦労した、とい
う例でもあります。

この例では、言葉にできない衝動を他の人に分かり易く表現するた
めの手段として、言語化の手法を用いました。


さて、実は、「風の景色」というタイトルを考える過程で、自分自
身で自覚できたことがあります。それは、私の一貫した写真のテー
マが「その場の空気感」であるということです。

現在の私のサイト名が「風の写真館」となっているのはそのためで
す。やはり、言語化という作業は、テーマを深め、昇華してくれる
と思います。

さて、今まで何回かご紹介した作品シリーズ"Tokyo Bay Area"も、
東京湾岸の不思議な空気感がテーマでした。

次回はこの作品シリーズを言語化した例をご紹介します。

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【『風の写真館コレクション』、登録受付中】

今回の『風の写真館コレクション』は、"Tokyo Bay Area"シリーズ
から、「"Tokyo" - 川崎港、1988」をお送りします。

海外から東京宛に届いた材木が、川崎港で朝の陽を受けて黄金色に
輝いている様子を収めました。

こちらでご覧いただけます。
<http://www.takahisanagai.jp/collection/News/collection-006.html>

登録(解除)・バックナンバー閲覧は下記でどうぞ。
<http://www.takahisanagai.jp/collection/collection.html>

お詫び:先週号で、『風の写真館コレクション』のリンクが間違っ
ておりました。お詫びいたします。

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【あとがき:皆様へのお願い】

前回の11号で田坂広志先生をご紹介しましたが、「田坂広志先生
を知ることができ、うれしい」というご意見をいただきました。

私もこのメッセージをいただき、とてもうれしく思いました。
ありがとうございました。

そこで田坂先生について追加情報です。

下記に田坂先生のサイトがあります。メッセージメールにも配信登
録できます。(もちろん無料) 是非ご覧下さいませ。

<http://www.hiroshitasaka.jp/>

ではまた来週。

                          永井孝尚

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発行人:永井孝尚 <mailto:mail@takahisanagai.jp>

 『風の写真館』<http://www.takahisanagai.jp>で作品やコラム
 を掲載しています。よろしければお立ち寄りください。

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Copyright(C), 2004 永井孝尚



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